賛否両論ある発表になった。iPhoneの画面サイズが大きくなったことに、ネガティブな反応を示す人も多い。また、ようやくお披露目された腕時計端末にも、肩透かしを食らったと言う人もいるだろう。

仕事も終わったので思ったことをメモしておこうと思う。今回の発表会がいかに革新的なのか。

まず、iPhoneのようなデバイスは、機能面で拡張していかなければならない(もはや宿命)。実際、今回はサイズが大きくなったが、「持ち運びにくくなる」という声が聞こえる。でも、Apple Watchの登場で持ち運びやすさを優先する意味がなくなった。

Apple Watchの存在自体が、iPhoneを「携帯電話」の概念から「持ち運べる母艦」へシフトさせたためだ。

例えば、電話やメールをサクッと受け取れるようになるが、これまではiPhoneをポケットやバッグから取り出し、確認していた。これを即座に行えるようになる。Apple Watchは「子機」のような役割と言えるかもしれない。

ただ、勘違いしてはいけないのは、単に「取り出す手間が省略される」ことが価値なのではない。そもそも、Apple Watch単体では考えてはならない。

iPhoneとこの腕時計端末は、一体不可分である。地球と月のようなもので、セットで捉える必要がある。セットの状態でなにが起きるかが真の価値だと考えるべきで、これによりiPhoneの使い方も再定義される。

Appleは新しい次元でiPhoneを捉えているのかもしれない。

iPhoneとApple Watchの関係性

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iPhoneがないと、Apple Watchは利用できない仕組みである。Apple WatchはiPhoneに接続されていて、補助装置として大きな意味合いを持つ。

相互に連動する様子は、ホームシェアリング下のAppleTVやMac、iPhoneの構図と近いかもしれない。

ただの補助装置というわけもなく、高精度で多彩なセンサーがついている。

  • 心拍センサー:運動量の計測、全体的な消費カロリー
  • GPS:iPhoneのGPSとWi-Fiを使って移動距離を測定
  • 加速度センサー:総運動量を計測、歩数をカウントして、一日の消費カロリーを計算
  • ※長い期間での進み具合や傾向を見たい場合は、iPhoneで使えるApple Watchのパートナーアプリケーションであるフィットネスを活用

図に載っていないものとしては、カレンダー、マップ、株価、天気、Passbookの機能がひと通り利用できる。また、Pingを送信してあなたのiPhoneの位置を特定できる。iPhoneを失くしても大丈夫だ。

人間に近く、素早く、感覚的なデバイス

Appleははじめて身に付ける製品を提供することになる。iPhoneは「持ち運ぶ」デバイスだ。Apple Watchは「身に付ける」デバイスで、より人間に近い。中継地点としての腕時計だ。

素早いやり取りには最適だが、画面が小さいから手で操作するには分が悪い。その場合はiPhoneにスイッチするといった利用シーンになる。
つまり、 Apple Watchで始めて、iPhoneで続けるといった役割分担になる。

  • Apple Watchで新着メールを読む→iPhoneで返信を書く
  • Apple Watchで試合のスコアの概要を知る→最新ニュースの詳細をiPhoneで確認
  • 長い返信メールを書きたい場合、そのメッセージをiPhone上で開く
  • AppleWatchで通話中、話が長くなりそうな場合にiPhoneへ転送
  • Eメールや、メッセージ、電話の着信があるとリアルタイムで通知が届き、瞬時に応答

市場へ浸透するか

まず、心配なのは値段設定だ。$349と、やや高い印象。

というのも、iPhoneの付属アクセサリーとして捉えると「必要不可欠」なものではない。つまり、高次の価値をもたらすものだ。タブレット端末を購入するようなイノベーター/アーリーアダプター層にはリーチできるかもしれないが、マジョリティに浸透させるためには「アクセサリー」の域を越える必要がある

また、現状ではApple Watch単体で価値を生み出せるものではない。iPhoneを所持していることが利用前提になる(でないとそもそも使えない)。そうなると、必然的に顧客ターゲットがiPhoneユーザに限られてしまう。
いかに「iPhoneの付属物」のステージを超えるかが焦点になる。具体的には、Watch単体で独立利用を可能にする準備をするべきだ。ゆくゆく対応してくれそうな気もするが。

既存メーカー、つまり時計業界とどう対峙するかも問題になる。
時計の大きな価値の1つは、利便性ではなく「ブランド価値」だ。この価値からリプレイスできるだろうか。

考えられるのは時計メーカーとの協業だ。既存ブランドを活用しない手はない。これはそのうち動きがあるだろう。時計メーカーにとってガチガチの競合相手だから、簡単に手を組むかどうかが見ものだ。

"人間の生活に馴染む"デジタル

今回、Appleはデジタルの未来を垣間見せてくれた。「自然さ・親しみやすさ・生活シーンにフィット・体で感じる」という4つのメッセージを強烈に感じた。IoT(Internet of Things)も、「人間の生活に馴染む」ことがビッグテーマだと思う。

届いたメッセージ、かかってきた電話、現れた通知を、簡単に、直感的に見て、対応できる。それだけではありません。 一つひとつを体で感じることができるのです。Apple Watchではすべてのやり取りが、スクリーン上の文字を読むだけの体験から、本当につながっていると感じられる体験へ変わります。
https://www.apple.com/jp/watch/features/

電話の着信音を消したい時はApple Watchを手で覆う という操作方法は直感的で美しく、画期的だと思う。

それから、特定のアクション時に時計が手首を軽く叩くのも面白い。バイブレーションではなく「叩く」のが重要で、人間社会にもともと存在していた「叩く」という動作に則ったところが良い。

未来では、デジタルが、アナログに溶け込みはじめる。デジタルもアナログも関係ない世界が待っているはずで、その垣根はこれから徐々に切り崩される。例えば、Webはまだディスプレイのなかにしか存在しない。これが、現実世界のあらゆるところに溶け込み、浸透していく。Webという概念は、認識する必要がなくなる。

この腕時計デバイスは、そういった世界を作り出す足がかりになるかどうか。

ところで、デザインの面では、もっと、自然に利用できるようなデザインのものを期待したい。 Moto 360ぐらいの自然な感じがクールかと思う。

Apple Payがどこまでモバイル決済を普及させるのかも興味深い。東京オリンピックあたりには誰しも簡単に決済できている可能性が高い。5年後、観光客が大勢やってきたときには交通機関だけでなく、コンビニなどでも活用できないとヤバイ。

こんな余計な心配をするのも馬鹿馬鹿しいが、元凶はAppleが世に送り出すこの端末なのだから実にたちが悪い。今晩はゆっくり眠れるだろうか。

@healthyboy5 の投稿