この記事は湘南ベルマーレAdventカレンダーの対象エントリです。

去年の12月、@bellmare_staff のフォロワー数は3.5万人だった。画像の自動生成テクノロジーを提供した今年はそれが8万人に達した。これはひとつの成果だと思う。Jリーグにある多数クラブのなかでも一際存在感を発揮する湘南ベルマーレというチームに貢献できることは、弊社にとっても光栄なことだ。

フォロワー数が増えれば、よりたくさんの客・ファンに投稿を届けられるだけでなく、認知度向上にも一役買うだろう。しかし、いくら広報を頑張ったところでチケット販売収益は増加しない。これはどういうことか。

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フォロワー数が爆増しても観客動員数は増えない問題

twitterなどのソーシャルメディア運用に限った話ではなく、広報全般に言えることだが、サッカークラブにおける広報の「KGI」の1つは、観客動員数をどれだけ増やせるかである。twitterの場合、その「KPI」としてフォロワー数が掲げられている。

フォロワー数が増えれば認知度が上がる。そうすると、観客動員数が増える。観客動員数が増えるということは、それだけチケットが売れる。結果、収益が増える。twitterのフォロワー数をKPIに据えるのは、こうした構図が存在するためだ。

一般的に、客数を増やせば増やすほどチケットが売れるのだから収益は上がると考えられる。しかし、ベルマーレの場合はその法則を適用できない。なぜならBMWスタジアムのキャパシティには限度があるため客数を増やすことが事実上不可能だからだ。

観客動員数を増やすことができないから、グッズ販売やソシオ制度のようなもの(具体的にはベル12などのサポーター会員)、そしてチケット自体の価格を上げることで顧客あたりの収益効率(収益/ファン1人)を高めるしか現状では打ち手がない。

フォロワー数が増えることで認知度は上がったかもしれない。ベルマーレに興味を持つ人も増えたかもしれない。それでも、スタジアムのキャパシティの問題を解決しない限り入場料収入に結びつかないのだ。これが本エントリの問題意識である。

新スタでJ1平均レベルの予算規模も夢じゃない?

遠藤航が抜かれ、永木亮太が抜かれ。菊池大介にまで触手が伸びているとの報道もある。他クラブの予算規模とくらべると、圧倒的に劣っていることは事実で、満足な予算があるチームと競合するとなかなか厳しい。

果たしてこんな状況がいつまで続くのだろうか? 何か突破口はないのか? 具体的に何が不足していて何が問題なのかを知っておかねばならない。

ここで眞壁さんの言葉を引用したい。

今のクラブ規模では限界がある。(営業収入を)倍の約30億円にしないといけない (引用)湘南2万人新スタジアム 平塚、藤沢など候補に検討

これはつまり、スタジアム問題の解決によってお金の問題を抜本的に解消できる余地があることを示唆する。

湘南ベルマーレの広告料収入は3.35億円。チーム人件費は6.99億円で、営業収益に対する人件費の内訳は44.8%だ。つまり、営業収益のうち半分弱のお金がチーム人件費に充てられる。他クラブを見てもおおよそ35%〜50%で推移しており、平均的な比率と言える。

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もし、眞壁さんの「営業収益を30億円に」が実現すれば、そのままチーム人件費が今の2倍、つまり14億円となり、人件費ベースでJ1平均レベルに達する。これはFC東京や川崎フロンターレとほぼ同じ水準だ。他クラブと比較しても決して遜色ないレベルと言える。

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観客動員増加→広告収入&グッズ収入UP

では、本当に30億円もの営業収益を実現できるのだろうか。

営業収益が30億円となると、これもJ1平均レベルである。新潟と鳥栖が25億円、柏が30億円。神戸と広島は36億円。

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Jリーグクラブの営業収益は主に以下で構成される。カッコ内数字は湘南の実績値。

大まかな収益 ≒ 入場料収入(3.35億円) + 広告料収入(5.73億円) + その他収入(4.6億円)

※その他収入 = 商品販売による収入や移籍金収入等
※上記3つに加えてリーグ分配金などがある

サッカービジネスは、つまるところ一種のイベントビジネスだと表現しても良い。

親会社を持たない湘南ベルマーレが営業収益30億円を目指すのであれば、少なくとも入場料収入で2倍以上の7億円が必要だ。

※親会社、大きなスポンサーを抱えるチームはスポンサー費を広告料として計上するため、広告料収入が膨らむ傾向にある。湘南の場合、経営上のリスク管理の観点から、広告収入が全収益のうち50%を上回らないようにしているらしい。

そのためには、一人あたりの入場料収入を2200円に改善し、総観客動員数自体を1.5倍に増やしたい。また、カップ戦で勝ち続ければ試合数が増えることから、できるだけ試合数を担保することも重要だ。

当然、入場料収入を3.5億円増やすだけでは目標の営業収益30億円には届かない。ただ、観客動員数が増加すれば、ベル12やグッズ販売収入などの「その他収入」も増える。さらに、観客動員数が増えればその分広告機会が増えるから、広告料収入UPも見込める。

Q. 営業収益が2倍になるためには…

* 入場料収入2倍(総観客動員1.5倍 × 顧客あたり収益効率1.35倍)
* 広告料収入2倍
* その他収入2倍

ベルマーレには親会社はないが、例えば新潟も同じような境遇だ。それでも、湘南の約2倍の広告料収入を得ていることを考えると、いつまでたっても親会社がないことを言い訳にはできない。ましてやベルマーレには三栄建築設計が株主に名を連ねた今、もはや「準親会社」と言えなくもない状況だ。役員こそ派遣されていないものの、派遣されていてもおかしくはない比率の株を取得しており、株式会社湘南ベルマーレを裏から支えている。

「湘南スタジアム研究会」には吹田スタジアム建設の立役者も名前を連ねているという。正直、本当にスタジアム作れるの? と最初は半信半疑だったが、動向を見聞きする限り大きく風向きが変わってきた印象だ。

何年後になるかは分からないが、スタジアム問題がクリアになったとき、湘南ベルマーレの営業収益はJ1平均レベルに達する可能性がある。未来は決して暗いままではない。

ここでプレーしたい、と思える魅力あるクラブに

スタジアム問題が解決できると、クラブをとりまく環境が大きく変わる。しかしながら、今すぐ予算規模がJ1平均レベルに到達するわけではない。少なくとも5年はかかってしまう。では、それに備えて「今」すべきことは何なのだろうか?

実は、チーム人件費を見ると各クラブの予算規模に大した差がない。浦和は21億円、鹿島が20億円と続くものの、半数以上のチームは15億円以上だ。大した差がないのに、それでもいい選手が浦和や鹿島、FC東京や川崎Fといった強豪クラブに集まるのはなぜだろうか。

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これはかつてJリーグでプレーした元選手の証言だが、社会人の「就活」と同様、チームの「ブランド」を意識してチーム選びをするらしい。つまり、チーム選びの基準は決して給料だけではなく、チームのブランドや「入社」後の自分を想像して、総合的に所属先を決める。

チームのブランドという点では、湘南スタイルの言葉のもと、ベルマーレの目指すサッカーがかなり認知された印象だ。前強化担当の田村雄三氏の発言。

ウチの若手が年代別の代表に招集されて、他チームの選手を一緒になるじゃないですか。そうすると、「ベルマーレっていいよね、伸びそうだよね」といった声を聞くそうです。 (引用)低予算でもなぜ強い 湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地

つまり、目には見えない「クラブへのイメージ」が大きく選択を左右するのだ。

湘南のブランド価値は確かに上昇傾向にあるようで、ここ数年は将来を嘱望される若手選手がベルマーレを選び、入団するようになってきた。今年はU19代表のDF杉岡、昨年にはMF神谷優太が少年でプレーすることを選んだ。フジタがユニフォームスポンサーに復帰するのも決して偶然ではない。

また、「湘南スタイル」は他選手、他クラブにも影響を与えている。とあるクラブのフロントに在籍する知人は「湘南ベルマーレの継続性、魅力的なサッカーは大いに参考にしている」と語っていた。

大物選手がごっそり引き抜かれ、大した移籍金も手に出来ず、一部のサポーターからは「育成にコストかけても意味がないんじゃ」との声も聞かれる。

しかし、長いスパンで考えると、実はベルマーレの未来は決して暗いままではない。J2降格で結果が伴わない今だからこそ、積み重ねを放棄せず、「商品」「エンターテイメント」としてのスペクタルな試合を徹底的に継続すべきなのだ。せっかく手にした湘南スタイルを放棄することは、クラブとしてのブランドイメージを放棄することを意味する。今年はJ2降格となったものの、こういうときこそ5年スパンで物事を捉えたい。

どんなクラブにだって浮き沈みはある。「今」だけを見ずに、長期スパンで想いを巡らせることも必要だ。

"そのとき"がいつか来るまで、湘南スタイルをさらに磨き「時を待つ」のが賢明ではないだろうか。「真の市民クラブ」が独自のスタイルでJリーグを席巻する姿を、僕は見てみたい。